前の記事へ |  トップページへ |  次の記事へ

2006年12月20日 (水)

絵に描いたもち・空飛ぶパイ、甘いのはどっち?

ちょうどこの回が配信されるのは日本、アメリカ、中国、韓国、ロシア、北朝鮮の6か国協議が行われている頃で、私、七尾は北京で取材をしているはずです。寒いだろうなぁ…。気温はともかく協議自体がお寒い結果にならないといいのですけれど。

アメリカ合衆国が中心的役割を担っている「外交」の懸案(けんあん)事項で、まさに「行き詰まり」= dead end 、の状態にあるのが、やはり北朝鮮とイラクの問題です。何も解決策がなく「八方ふさがり」であることを「行き詰まり」と日本語では言いますが、これは英語でも同じですね。

Ya_2Situation in Iraq has reached a dead end.
(イラク情勢は行き詰まった)

ここでは情勢を situation としましたが、 通常は国際紛争の場合 conflict とします。「イラク情勢」も以前は

Conflict in Iraq
Iraqi conflict

という名称で呼ばれていました。ところが、最近は単純に Iraq と言い表されることが多くなってきました。これには、「イラク情勢」をどのように定義するのか、について侃々諤々(かんかんがくがく)の議論があるからなのです。

日本語では「イラク情勢」というなんとなくあいまいな言葉ですべてが片付いてしまいますが、英語では、とくにアメリカ合衆国においては、共和党・民主党の両陣営にとって、 Iraq のあとにつける言葉にはさまざまな「政治的利害」= political interests が関わってくるのです。

いちばん問題となっているのは Civil War という名称を「イラク」に付けるかどうか。

毎日数十人単位で市民が武装グループ同士の対立に巻き込まれ死亡してゆくイラクの「情勢」は小学生が見たって「内戦」にほかならないのですが、そこがブッシュ政権にとっては違います。

頑固に「内戦」だとは認めず、「対立する諸勢力が衝突を繰り広げている情勢であって必ずしも<内戦>ではない」 といった、 意味不明な答弁をスノー報道官が行ったりしています。

えっ?! 

<内戦>って、「対立する諸勢力が衝突を繰り広げる情勢」ではないの??

と目が点になってしまいますね。

でもブッシュ政権にとってはこれは死活問題でして、「内戦」と認めてしまいますと、 政権のイラク政策が「失敗」= failure であったことも認めざるをえなくなってしまうので、決して「内戦」とは言わないのです。

ただ、新しく国防長官として承認されたゲイツ氏は、議会でこれまでのイラク政策は明らかに「失敗」していると認めましたね。でもこれに対しても、ブッシュ大統領は否定的です。

北朝鮮にしてもイラクにしても、今の政策がもっとも批判されている点は、 解決方法を militaristic approach =「軍事的アプローチ」に限定してしまっており、 diplomatic approach =「外交的アプローチ」が完全に放棄されている状態であることです。

ベイカー元国務長官が指揮を執った「超党派」= bipartisan 、イラク研究グループは、 Iraq Study Group Report という報告書を発表しました。何よりもイラクの各勢力に影響力を持っている周辺諸国、特にイランとシリアと「対話」するべきである、ということを強調しています。

でも、この報告書が発表される前から、ブッシュ大統領は「イランやシリアと交渉する余地はない」ということを何度も強調しています。では今回の報告書も今の政権では「絵に描いたもち」ではないか、と批判が高まっています。

先週のボストン・グローブ紙の社説のタイトルは、

The Baker panel-‘Pie in the Sky’report won't fix Iraq.
(超党派の有識者グループ―「空飛ぶパイ」ではイラクはどうにもならない)

でした。この見出しを見てくすっと笑ってしまったのですが、「空の上のパイ」という慣用表現がかわいらしくもあり、やや間抜けでもあります。なるほど、これはまさに「絵に描いたもち」のアメリカ版だな、と思いました。

日本でも、何ら実効性が無い条例案や、政府のさまざまな審議会が発表する報告書に「まるで絵に描いたもち」という評価が下されることがよくありますよね。みんな考えることは同じなのだな、という感じがします。

「もち」というのは、日本人にとって古くから神に捧げる神聖な食べ物で、さまざまな行事で食されてきました。だからこそ「もち」を使った慣用表現はたくさんあります、「絵に描いたもち」以外にも、「棚からぼたもち」、「もちはもち屋」、「花より団子」(団子も「もち」です)、「焼きもち」(うらやむ、のことですね)。その「もち」に相当するのが、 アメリカでは pie なのではないでしょうか。

「アップルパイ」や「ミートパイ」。家族の集まりやクリスマス、何か特別な時に焼かれるのが「パイ」。なじみがあるからこそ「もち」と同じく pie も多くの慣用表現に使われています。 意外なのがその慣用表現の一つが日本に輸入されて定着していること。

アメリカでは、政治における「賄賂(わいろ)」や、政治的な庇護(ひご)を表すのに pie が用いられるんです。 一つの「パイ」がある政治家に集まる権力だとするなら、その一切れ一切れ(「一切れ = a slice )を関係業界団体に「配る」「振る舞う」というところからくるのでしょうね。

そう、もうお気づきでしょうか。

歳末になると「税収のパイを分け合う」といった表現がよく聞かれます。あるいは「成長のパイをどうやって分配するのか」。私はこれは「麻雀パイ」の「パイ」だと思っていたんですが(苦笑)、パンプキンパイなどの「パイ」だったのです!

いまだに公共事業などの「ばらまき」による官製談合のニュースが絶えませんが、その「ばらまき」がアップルパイとなってお空を飛んでいると想像すると、ちょっとむかむかした気分も収まる…、そんなことはないですよね、失礼しました!

談合の場で振る舞われたかもしれない「団子」にいたるまで市民の血と汗と涙の結晶、血税から支払われているという意識が公には不可欠です!

本題に戻しますと…、ベイカー報告書はまるで「空飛ぶパイ」でまったくお話になりません、という批判が米国内でも高まってきているのですね。それでも、「空飛ぶ砲弾」よりは、たとえ非現実的であったとしても、平和への一縷(いちる)の望みを「空飛ぶパイ」にかけてみたいと思います。