前の記事へ |  トップページへ |  次の記事へ

Vol.11『家族無計画』

評者:今野書店/水越麻由子さん

昔から「家族」が苦手だ。

まだ幼い頃、父が女性と金の問題で最終的に警察沙汰となったおかげで一時的に一家離散となったことがある。その後事態が落ち着き家族のかたちを取り戻した後も、各々の心が負った傷は深く、怒号が飛び交うことはあっても団欒など無縁の一家となってしまった。

そのせいかCMなどで流れるステレオタイプな家族像を見ても、全くピンとこない。笑顔で食卓を囲む一家。8ミリビデオで運動会の子どもの姿を愛おしそうに撮影する父親、寄り添う母親…。彼らは別世界の住人に見えた。そしてそれは徐々に「うちは普通の家族じゃない」というコンプレックスや恥に変わっていった。

本書の著者・紫原明子さんの、18歳での結婚を機にスタートする「家族」の物語は、私がテレビで見てきた家族像のどれとも異なる。彼女を取り巻く環境はめまぐるしく変わる。出産、莫大な収入と出費、奔放な夫、離婚、シングルマザーとして子育てに奮闘しながら起業。ジェットコースターのように乱高下しながら、直面する問題と向き合い成長していく姿が頼もしい。

世間が押し付けてくるステレオタイプは「良き家族」にとどまらない。「良き妻」「良き母親」…。こうした概念は、時に当事者たちを苦しめる。紫原さんは自らの経験をもとにそれらひとつひとつに疑問を投げかけ、前向きに方向転換できる考え方や生き方を提示する。

ところで私が上京するため家を出て、一番つらかったのは母と離れることだった。父に嫌気がさした兄は早々に家を出ていたし、夫婦仲も悪かった母は残る私をとても大事にしてくれた。家は掃除が行き届き、食事は手作り。父の作った借金と家計のためパートに出ながらの家事育児は本当に大変だったろう。

女性のそんな姿は、ほとんど空気のように認識されている。この本でも著者は息子に「パパの力を借りないでママに何ができるの?」と言い放たれた出来事が語られる。傷つき涙する一方で、彼女はかつて自分も母親に同じようなことを言ってしまったことを思い出す。これを読んだ時、まさに私自身も母の果たしてきた努めを軽視していたことに気が付いた。機能不全家族の足りない部分を埋めていたのは母の努力や愛情だったのに。ダメダメだと思っていた私の家族。その思いが少しずつ変わっていく。

「夫は仕事、妻は家事」という時の、家事への軽い侮蔑。女性は生まれてすぐにその役割を担わされ、当然のことと自らも周囲も受け入れる。「家族」の呪縛を解くのは、そうした気付きを経て、夫と妻、あるいは父・母・こどもという役割を超え、互いを尊重することから始まるのかもしれない。

悩みながらも前を見て人生を切り拓き、彼女だけの家族のかたちを作っていく紫原さん。私のようにいまだ「家族」の亡霊から逃れられない方がいたら、ぜひ本書を手に取ってほしい。


Photo   『家族無計画』  (紫原明子著)

水越麻由子さん

東京西荻窪の「街の本屋」今野書店・文芸書担当。

最近注目してるのは韓国や中国・台湾などからの翻訳本。

ここ数年で紹介される量が急速に増えたのは、本当に喜ばしいことです。

2018/12/17