Vol.9『自殺』

『自殺』を自殺名所に置きたいと、単純な私は単純に思った。
なんだこれと思わず拾ってしまうように、さりげなく落としておきたい。
家族や恋人が自殺した遺族のはなし、樹海を歩いて沢山死体を見つけている人のはなし、秋田県の自殺率がなぜ高いのか真面目に研究する先生のはなし。
そして、むきだしに語られる末井さんの人生のはなし。
夢中で読んでいたら、夕焼けに一番星が顔を見せて、なんだ今日は死ぬ気分じゃなくなってきたな、死ぬのは明日にしよう。
そういう風に思わせる力がこの本にはあると思う。
― 僕は、必ずしも「自殺はダメ」と思っていません。
と末井さんは書く。
私は小中学生の頃、学校に順応できない不登校児だった。
しばらく学校に行かないでいると、「学校においで」という先生の電話や同級生の手紙がやってくる。
学校が言う「学校においで」は、「学校にこないなんてダメ」という圧力だった。
本当に来てほしいのかはわからなかったが、私のための言葉ではないことはわかった。
末井さんの言葉はこう続く
―もちろん死ぬよりは、生きていた方が良いに決まっています。でもしょうがない場合もあると思います。人間社会は競争だから、人をけ落とさなければならない。時には人をだますこともあるでしょう。でも、そんなことしてまで生きたくないって思うまじめな人、優しい人に「ダメ」と分かったようなことは言えないですよ
末井さんの言葉を温かく感じるのは、事情を聴くこともせず「ダメ」とひとくくりにしないからだ。
「ダメ」なことをする理由は人によって違うのに、世の中には訳知り顔が多すぎる。
末井さんの人生は、母親の自殺、無職、借金、作っている雑誌の発禁、事情聴取、愛人、不倫、訳知り顔の世間サマが忌み嫌う言葉のパレードである。
それでも、私にとっては道徳の教科書に載せたいくらい清潔だと思う。
末井さんは自分の靴がどんなに汚れようと、人を踏み石にしたり、お金に物を言わせて人生を舗装させたりしない。
その後ろ姿は、どんなにはみ出しても、他の人と違っても、生きていていいと教えてくれる。
「みんな死なないでくださいね」とこの本は終わる。
『自殺』は、読んだ人の新しい道標となる。
『自殺』 (末井昭著)河野瑠璃さん
MARUZEN&ジュンク堂書店渋谷店勤務。日本映画学校卒。古本屋の末娘。幼少期は活字嫌いで親を泣かせたが、今では積読が減らない。末井さんの本が好きな方、どうかパク・ミンギュさんの『三美スーパースターズ』もぜひ。

