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Vol.6 『タイタンの妖女』

評者:都内某書店/石田さん

SFです。でもそういったジャンルでわけることは、この本においていえば意味がありません。私はふだん、SFを読みません。どちらかといえば、芥川賞よりのものを好んでいます。

では、なぜ読んだのかといえば、「爆笑問題 太田光氏絶賛! 今までに出会った中で、最高の物語」というオビの、“今までに出会った中で最高”と書かれていたことに魅かれたのかもしれません。人はめったなことで、“最高”といえるものではないからです。

あらすじには、神のごとき全能者になった主人公が人類の救済に乗りだし、そのおかげで大富豪のもう一人の主人公が一文無しのすってんてんになって太陽系を星から星へと流浪する羽目になり、土星でその使命を明かされる、と書いてありました。

まったくもってわけのわからない話なのですが、わけのわからなさにも魅かれました。皮肉あり、笑いあり、悲しみあり、人生の格言ありと、とても読みやすいし、読者をひっぱっていきます。

何度も、これはいい読書だ、良質の本だ、SFなんて関係がない、火星だろうが土星だろうが、おもしろいものはおもしろいと思いました。

SFを読まない人も純文学しか読まない人もエンターテイメントしか読まない人も、どうぞ手にとってみてください。読まないと損とまではいいませんが、読んでいないともったいないなぁと思ってしまいます。自信をもってすすめられますし、もし楽しくなかったならば、自信をもって謝ることができます。

読んでいるときに、良質な読書ほど、終わってほしくないものだと何度も感じました。充実した読書になること請合いです。


Photo

『タイタンの妖女』 (ハヤカワ文庫)
カート・ヴォネガット・ジュニア=著    浅倉 久志=訳 


石田さん 

都内某書店にて文芸書を担当。最近読んだ本は『もやしもん』。

「おもしろかったし、ものの見方が変わりました」。

次に読もうと思っているのは『デトロイト・メタル・シティ』。

いまのモットーは“乱読多読”。

2008/09/29