Vol.14『知らない人に出会う』

評者:銀座・教文館/吉江美香さん

アメリカの人気ドラマ「クリミナル・マインド」をご存知だろうか。

Dr.リード役のマシュー・Gにハグされた昨年をいきなり自慢したい。

へへ、どうでもいいことで字数を使ってしまったよ。

そのドラマはFBIに実在するBAUという組織で心理分析官たちが凶悪犯罪に挑むストーリーだ。

「知らない人に関わったがためにサイコパスの餌食になる善良な人々」の絶叫で毎回始まる。

気軽に受け答えするから、目玉にナイフをぶっ刺されたり電ノコで切り刻まれたりするんだよ、油断するなよ! と映像を見ながら独りごちるが実生活で能面無言は不可能だ。第一、仕事が接客業だもの。

画面越しに展開される悪夢のような物語は、怖いものみたさや極限状態の疑似体験にはおあつらえ向きではないか。皆さんはどうお感じだろう。

シニカルな導入になった気もするが、さて『知らない人に出会う』に話を進めよう。

就業時は除外するとしても、島国だろうが大陸だろうが人種が異なろうが、もっとフランクに知らない人に声をかけてみましょうよ、とこの本は語りかけてくる。

そしてそれらを実行に移す際には細心の注意と経験が必要となることも詳細に記されている。

声をかけるシチュエーションを吟味し、相手の身なりや顔つきに留意し話題にも気をつけつつ、切り上げるタイミングも考慮せよと続く。

ほんの一瞬の出会いであれ、そこに自分なりの喜びを見出し、それで良しと思える性格の持ち主であれば著者と同じ心持でどんどん試して欲しい。

一方、あらゆる観察力を総動員してまで? と尻込みする人も無意識のうちにそういった場面に遭遇しているはずだ。知らない人に何か尋ねた、感謝した、単に挨拶だけ等々。

自分の経験上、声をかけるのもかけられるのも気負いが少ないのは趣味の場だろう。

「同じ事柄に興味がある」という点で多少なりとも安心し共有感を得られることは確かだ。

例えば歌舞伎座では役者や演目以外に、お互い膝に乗せたお弁当にまで話題は発展した。

小さなライブハウスともなれば通う回数が増えるため、熱心なファン同士はいつの間にか顔見知りになる。

程度の差はあれど、顔見知りが増えることは悪くないように思う。とってもたのしいことのようにすら思う。

とりあえず毎朝、駅の改札に立つ駅員さんにオハヨウとお声かけしようかなあ。


9784255010113 『知らない人に出会う』

吉江美香さん

銀座・教文館勤務。常に<町の本屋さん>という存在でありたいという心構えで創業134年目を迎えました。

お気に入りはカズオ・イシグロ、木内昇、福澤徹三、UKロック、ウクレレ。

2019/02/04

Vol.13『まだまだ知らない 夢の本屋ガイド』

評者:大阪市内の書店勤務/木村勝利さん

僕は一人の書店員である前に、一人の本屋好きでもあります。


今のお店で働きはじめる前から色んな本屋を巡り、そのお店が醸し出す雰囲気や選書のおもしろさを感じ取っていました。


書店員になってからも、様々な出版社から出されているブックガイドを片手に、大阪から東京へ本屋巡りに遠征することもしばしば。そんな中で出会ったのがこの一冊でした。


まず目を引かれるのが帯に書かれている「まだどこにも紹介されたことのない」という一文。これまでに出版されたどのブックガイドや雑誌の特集にも出たことのない本屋が紹介されているというのです。


そんなまさかと思いましたが、読み進めると驚愕の連続。日本にはまだまだこんなにおもしろい本屋さんがあるのか!と。


リアルな店舗を持つお店だけではなく、人から人へ本を届けるというサービスも含めて「本屋」という名のもとに紹介されているのが素晴らしいです。


テレビやネットで出版不況だ何だと騒がれている中で、現場に身を置く人たちはこんなにも「これからの本屋」のことを考えて働いている。そのことに心震え、自らの仕事にも誇りを持つことができました。僕のやっている仕事は、本と人とを繋ぎ、未来を作る仕事なんだと。


もう一つ感心したのは、これらの本屋を紹介しているのが、全て現役で働く書店員さん達だということ。自分と同じく、日々新しい本を売り場に並べ、どうしたらお客さまにこの本が届くだろうかと思案している人達。


みなさんプロのライター顔負けの文章力(POP書きの賜物かも)で、ここも行きたい、これも楽しそうとページをめくるたびにワクワクしてしまいます。


書店員さんだけでなく、間には編集・営業・取次・印刷と、本には欠かせない職業の人達が、それぞれ夢のような取り組みを紹介しています。


もしこの本を読んでいなかったら、「本が売れない」「また一つ本屋が閉店した」などといった業界の閉塞した空気を感じながら仕事を続けていたことでしょう。いや、もしかしたら続けられていなかったかもしれません。


これまでもこれからも、本を、本屋を取り巻くアレコレは、おもしろいことで満ち溢れています。本を売ろう、届けようとする人達がいなくならない限り、ずっとずっと。


最後に僕から一つだけお願いです。この本はナナメ読みをせずに、必ず最初から順番に読んでくださいね。読み終わったとき、きっと本屋の持つパワーを改めて感じられるはずです。


9784255009636  『まだまだ知らない 夢の本屋ガイド』

木村勝利さん

大阪市内の書店勤務。「本と人の橋渡しをしたい」と書店員になりました。

読書、本屋巡りが大好きですが、遅読なのに映画、演劇と趣味を広げすぎ、昨年ついに積読本が500冊になりました(汗)。

2019/01/09

Vol.12『折る土偶ちゃん』

評者:早稲田大学生協戸山店/マツオ(あ)さん

私と土偶との出会いはほんの数年前だった…

就活中に訪れた東京国立博物館に遮光器土偶がいた。土偶のことは全く知らなかった。

関西で生まれ育った私のまわりには古墳や埴輪ばかりだったので、へえ!面白いなあ!と、その時はそんな感じで。

京都で古きものを学び、次は新しい何かが見たいな!と就職を機にやって来た東京。仕事でなんやかんやあり、落ち込み、元気を出すために訪れた展覧会でみみずく土偶と出会い、(前に見た遮光器土偶と形も大きさも全然違うやん…えっ、土偶って何…)とあれよあれよと土偶の世界へと入り込んでしまった。

古くて新しかった。

『折る土偶ちゃん』は、その名の通り、土偶を「折る」のである。

なんせ土偶を作るのは大変である。粘土を捏ね・焼き、あの形を再現するのは、たとえ土偶愛があっても至難の難…私も自分で土偶を作れず、板状土偶のいる青森まで土偶作りに行ったくらいだ。しかし!この本は!なんと!どこでもいつでも、紙を折るだけで土偶ができるのである!

本には、土偶の解説とともに、折り線のついた「土偶折り紙」が。折り方を見ながら山折り、谷折りを繰り返すと、自分の手のひらから土偶が出土するのである。

『折る土偶ちゃん』の著者は、解説が譽田亜紀子さん、折り紙がCOCHAさん。

譽田亜紀子さんの土偶解説はとっても楽しい。土偶だけではなく、土偶を発見された方々にもスポットを当て、縄文時代と現代とが繋がった、その瞬間を切り取る。この文章に登場する土偶たちも、譽田さんの手にかかれば、クスッと笑えて、親近感の持てる友達のようになってしまう(たとえば、板状土偶のページには「土偶だってパンツをはくのよ!」と。パンツを履いた土偶って何?と気になってくることでしょう)。

土偶折り紙を生み出したCOCHAさんがデザインした可愛い装丁に、ついつい手に取ってしまったら最後、あなたも土偶のトリコである。ハッと気が付いたときには、一心不乱に土偶を折っている自分に気が付き、縄文人も、こんなふうに土偶を作っていたのかな?なんて無責任なことを考えたりするのだ。


9784255010762   『折る土偶ちゃん』 (譽田亜紀子 文/COCHAE 折り紙)

マツオ(あ)さん

早稲田大学生協戸山店・書籍担当。

自分を書店員と呼んでもらっていいのか、いつも不安。イチ「本屋さん」になれるよう、

日々がんばります。いちばん最近衝撃を受けた本は『セッちゃん』(大島智子)。

2018/12/24